「無能の人」

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)

87年作品集として初刊行と思われる、つげ義春、現在の最新作品。
当時もはや古典になっていた鮮烈な諸作品にくらべると、どうにも地味でおとなしい印象があるかも知れない。しかし淡々とした、ヘタをすると凡庸な表現が、欠点には思えない。もちろん本当に凡庸な表現ではなく、過去の作品の印象からそう思えなくもないと言うだけだ。
著者自身または分身ではないかと思える元マンガ家が、なぜか河原で石を売る。本当にこんな事したのかな。していないと言っていたような、そうでないような。
91年に竹中直人監督、主演で映画化。つげ氏は撮影を見に行って楽しかったという。良かったな。映画も見た。私は好きな映画だ。
ねじ式」等で熱狂的な支持を受け、寡作ではあったがさらにすごい作品を生みだしていった。かなりの空白の後、つげ氏にしてはけっこう速いペースで、しかも異例の連作であるこの作品が生まれた。一見地味なこの作品はもしかしたら代表作のひとつとなっているかもしれない。
初刊行後まもなく読んだこともあってか、もっともよく読み返したつげ作品。

「必殺するめ固め」

つげ義春と言えば、「ねじ式」が有名。悪夢を誇張したような個性的な内容によって現代日本漫画の古典的名作となっているが、その「夢」表現が頂点に達した作品集。
著作物における夢の表現は往々にして「そんな整合性のある夢は見ない」といえるようなものばかりだが、「必殺するめ固め」のなかの作品の数々は、私などが見る夢以上に整合性が欠けているような、しかしその現実に比べておかしくなる仕方には凄まじい説得力があるという、驚異的な作品群。本当に夢を元にしているかどうかはわかりませんが。
夢と言えば小説では内田百間(どうやらJISにはちゃんとした「けん」の字がない?)。たしか「冥途」あたりの作品集で、リアリティのある夢の表現があり、おかしなことで泣いてしまう気分が伝わってきたような気がしたが、「必殺するめ固め」はそれに匹敵するかそれを超えているのではないかと思える。
81年刊行、あまり詳しく調べたわけではないが、未だに晶文社で版を重ねている様子。


ねじ式」のパロディーが「マカロニほうれん荘」にあって、先にそちらのほうを読んだ・・・というのは蛇足。