「キーチ!!」

キーチ!! 7 (ビッグコミックス)

キーチ!! 7 (ビッグコミックス)

青年漫画雑誌の2大勢力、小学館講談社を渡り歩く(?)実力派、新井英樹の現在連載中(のはず)の作品。
この作家の描く現実の世界というのは、他の多くのマンガ作品に比べて、人間がじたばた生きていて、ある時ふいに交通事故に遭ってしまうこともある、刃物で切ると血の吹き出す人間のいる感じの強い世界だ。
その世界で、起こってもおかしくはないが、ほとんど起こらないだろう事が起きる。ここまでは現実とほとんど変わりないスケッチのようだ。現実だとそこから始まるその物語に、ちょっとそこまで深入りしない・・・と、いっても、本当はそのくらい深入りするひとも充分存在する、というレベルで、しかしこうまでは「物語」が、編まれるようには進まないだろう・・・とは、いっても、経験からそう思えるだけで、実際には偶然さえあれば充分この地平で起こりうる・・・そんな物語ではないかと思う。この今の日本でさえなければ突拍子もない話しでは全然ない。今の日本でも起こりうる。脚色的要素はかなり絶妙に選択されている。起こりうるか、起こりえないかの間合いのようなところで進む物語が、強烈に現実を逆照射している・・・なにかどこかで聞いたような言葉だが。
最初の長編「宮本から君へ」は現実のスケッチのようであった。しかしそれはやはり血が流れるなまなましさに溢れていて、読むものを刮目させた。前作「ザ・ワールド・イズ・マイン」では同じ地平でとんでもないスペクタクルが繰り広げられた。「キーチ!!」はその中間に位置する、極めて緊張感に溢れた傑作になるのではないかと、思っている。しかし綱渡りのようだ。
キャラクターの顔がこれほど多様に描き分けられている漫画家というのも、もしかしたら他にほとんどいないのではないか。画力もとんでもない。日本の漫画文化というのは、このような表現を生むように懐が広がっている点で進展し続けているとも思える。
最新刊のオビに、新井英樹がライバル講談社の雑誌で連載している作品も「絶賛発売中」と、紹介されていて、そういうのは、うれしいものだ。現在6巻まで刊行中。

注:ところが、画像が7巻のものになっている。7/4に他から移行する際に画像を付けたため。まだ読んでいないが、画像が7巻のモノしかなかったため。