「ヴィンランド・サガ」

ヴィンランド・サガ(1) (講談社コミックス)

ヴィンランド・サガ(1) (講談社コミックス)

プラネテス」で、マンガ好きを唸らせた(?)幸村誠の新作。
つい先日1、2話を中華料理店にあった「マガジン」で読んで、「めったにマンガ雑誌を読まないのについていたな」と、思ったばかりなのに、とはいっても、つい先日というのは数ヶ月経っているが。しかし、この1巻には4話しか載っておらず、早いわけだと納得。奥付を見たらとっくの前に出ている。この発売日があてになるのかどうかわからんが。平積みの最後の一冊を発見してゲット。しかし、最近はなんだか欲しいマンガの最新刊がなかなか手に入らない。この場合は少年マンガの棚をほとんど見ないせいかもしれないが。


安定した表現、描写力。作家の腕の確かさを感じさせる。もちろん充分わかっていたが。しかし「プラネテス」とはなにかとてもちがう感じがする。絵柄の変わった感じは未来の宇宙というスカスカした感じとヴァイキングの世界の装飾的な要素のちがいに過ぎないと思える。あと、抽象図形の多さと自然の曲線の複雑さとのちがい。そのちがいはしかし単に描写力の確かさを際立たせただけで、逆にその描写力がどんな舞台でも通用することを表したに過ぎない。キャラクター描写も、奇妙な貴族の司令官の描写がナウシカに出てくる王族をちょっとだけ思わせるくらいで、あとはある意味いままでの延長だ。しかし、ちがう時代、場所の物語だからか、いままでと似ている人物が出てこないのはたしかで、それもまた実力を感じさせるが。
ちがう感じは、なんだろう。「プラネテス」が、極めて新鮮だったのに対して、「ヴィンランド・サガ」は、極めて王道のような感じがするのだ。しかしふと気付くと、「プラネテス」も、極めて正統派。そう思っても「ちがう」感じは否めない。これらは悪い意味では全くないが、なんだろう。
あと、雑誌で読んだ時に、ページを開いて見つけたときの「おぉーっ」という感じが、コミックスでは至極当然あたりまえ、という感じにおさまっているということもショックだ。「マガジン」の他の作品からページをめくると絵柄一つで世界が変わる衝撃。しかしこれだけ取り出してコミックスになると、冊子内の統一感のためかあたりまえ。
「マガジン」で週間連載というのにもびっくり。もしかしたら、「プラネテス」よりも時間がかかりそうな絵柄、しかもたまにしか載らなかった「プラネテス」の何倍のペース?大丈夫か?書きためたのだろうけれど・・・。つい先日(こちらは数週間前)気になって「マガジン」の目次を見てみたら「作者急病」。・・・心配だ。今号か前号かでは「作者取材」だったが・・・。


ちがいは何だろう。「プラネテス」が、マンガの世界の砂浜で見つけたちいさな宝石の光だったというような印象だったこと・・・初めて「モーニング」に載った時の興奮を覚えている・・・と、砂浜の中に出現した獅子のようなありようとの、違いかも知れない。「モーニング」のなかの「プラネテス」は、個性的な連載陣の片隅になじんでいたが、「マガジン」の他の連載が個性的かどうか関係なく、「ヴィンランド・サガ」は、現在の少年マンガの王道では全くないのにもかかわらず、突如中心にあらわれた王道であるように思え、しかもそのことで逆に違和感を感じさせる。
とか私が思ったところで、マガジン読者の支持を受けるとはあまり思えず、最初は苦戦すると思う。しかしなかにはこれを見つけて宝を発見したような気持ちになった子供たちがいたであろうことも、想像に難くない。
そんなこどもが、ちょっとうらやましい。