「一輝まんだら」

一輝まんだら(1) (手塚治虫漫画全集)

一輝まんだら(1) (手塚治虫漫画全集)

北一輝というひとのことは詳しく知らないが、右翼思想家のようにとらえられているらしく、戦前の2.26事件の首謀者に影響を与えたことで死刑になっているようだ。しかしこのマンガ作中にも出てくるが、平民社の運動にも関心を持ち、社会主義思想に接近したこともあったようだが、一線を画さざるを得なかったようだ。


手塚治虫がそのような人に関心を持ち作品化したことは奇異に感じるのだけれど、それは現在の、社会のラジカルな改革への意思そのものを忌避する傾向からしてそう思うのであり、果たしてそういったあるいはかつて「ノンポリ」と言われたような傾向に、手塚治虫も、かつてこの作品などが書かれた時代も無縁であったのか、そんなあたりの時代の(世代の、ではない)断絶間をも感じる。
「まんだら」というタイトルに既に作品の全体構想そのものが示されている。突然のように終わっているのはやはりうち切られたようであり、主人公がこの作品の中盤からしか登場しない。主人公登場までの描写に当時の東アジア情勢が端的に表現されており、それは丁寧に準備された曼陀羅の背景部分でもあるようだ。これは私たちの世代の関心のスポットライトから外れた部分であり、いまの日本にとってもそうであろう、そのようなことも手塚治虫はある程度予期していたのだろう。
主人公登場までの物語での主人公とさえ思える女性も、たどる運命も時代描写のためのようで、ご都合主義的にも思える。ただ、こんなこともありえただろうということもあり、また、世界を見渡せば今でもこれよりひどいことも多いと思われ、はたしてこういうことを忘れる今の自分たちの知的環境、あるいは生活環境さえも、なにか良くないフィクションのような気持ちになる。


1974〜1975、漫画サンデーに連載されたらしい。