「ヒストリエ」

ヒストリエ(3) (アフタヌーンKC)

ヒストリエ(3) (アフタヌーンKC)

岩明均氏のマンガには、「風子のいる店」がモーニング誌で連載されていた頃から親しんでいた。その頃から固定ファンは出来ていただろうけれど、その後、アフタヌーン誌の「寄生獣」で決定的にブレイクし、人気を不動のものにした。続いてモーニング誌のライバル、ビッグコミックスピリッツ誌で連載した「七夕の国」といったあたりを加えて代表作、だろうか。その後は主に歴史物、日本のものから西欧へ、と短編がつづいた。ぽっと出ると期待に違わぬ内容ではあったが、短編ばかりということが少し残念だった。地味な作家になっていくのか・・・と。しかしそれらも含め、とにかく私は岩明均氏のマンガを再読することが多い。
そんなわけで久々の長編らしいのに大変期待しているのが、この「ヒストリエ」。ただ、アフタヌーン誌だし、ときどき休載するだろうし、ペースが遅いだろうと思ったのだけれど、意外にはやく3巻を手にすることが出来て、ほっとしている、と、言っても1年振りだけれど。


古代ギリシャ(?)の、数奇な運命をたどったアレキサンダー大王の書記官、エウメネスの生涯を描く・・・もののようだ。序盤からすでにすごい。歴史にくわしい人にはそれなりに知られている世界かも知れないが、私の知っている中学校までに習った概略では、全く感じ取れない生々しさに溢れている。
このひとの歴史物の特徴は、侍だろうがすごい人だろうが悪いヤツだろうが、今の生活感覚の延長で納得できる、なんというか皮膚感覚でとらえられる人間として描かれているということだ。登場人物が置かれている状況はもちろん今の日本ではあり得ない。しかし、そこに生きてきたのは全く違った種類の人間たちの話しではない。このことは重要だ。
逆に、今の日本での平和な生活もまた、歴史的にはほんの一瞬の、地理的にも世界で珍しい特殊な状況に過ぎない。それどころか日本で(少なくとも外から見たならば)豊かな生活、安全な毎日を送ることが出来ていることも、外の多くの国から比べると割合は遙かに多いにしても、実は日本の中でも幸運な状況に置かれているという特殊なことに過ぎず、そのことをふつうのことと納得していることのほうが無理がある。と、言えなくも、ない。
ここでイラクの話しなどを書くのもどうかとは思うが、いや、パキスタン地震の話でもいい。日本の普通の家庭に伝えられることの少ないひどい現実を生きている人たちから見える世界のことも、少しは想像できるようになりたいものだと考えている。
で、岩明均氏の作品を読むと、その想像力を、豊かにできる気がする。


で、「ヒストリエ」に描かれている人たちは、今の日本の私を含むより幸福な・・・幸運な?人たちからすると、極めて残酷なはなしだ。私たちはこのような歴史から生まれてきたのだ。直視しなければならないだろう。そして、現在の幸運は私たちにふさわしいものなのか、そもそもどうとらえられるものなのか、問いかけるきっかけにしたい。
・・・などと「ためになる」ことをわざわざ考えなくとも、なにか頭がはっきりしてくる感じがしてくる。