「マコとルミとチイ」

こんなマンガ、あったんだなあ。


「マコとルミとチイ」は手塚治虫さんが、実話2/3、フィクション1/3で(と、ご本人のあとがきにある)ご自宅の子育て模様を中心に描かれた作品集。実際のマンガの内容より10数年くらい後に描かれたものか。それを知らずになにか引っかかるものを感じて手に取ったのだけれど、ちょっと読んでリアリティーがビシバシ感じられる。体裁はよくできた「おはなし」として一編16ページでショートコントのように(?)しっかり構成されているのだけれど、そのエッセンスには私の知っている子供の頃の「あの感じ」が確かに在る。
そういえば、「マコ」って、「ルミ」って・・・なぜかけっこう愛読しているちょっとアレな漫画家田中圭一氏の、よりによって「神罰」の帯に豪快な(?・・・どこに片付けたか、見あたらない・・・)コメントを寄せていたことで覚えていた長女の手塚るみ子氏と、もはや説明の必要のないだろう長男の手塚眞氏を思い出し・・・。この文庫版の解説が手塚るみ子さんで、率直な言葉だけで書かれたこの文章も心を打つ。
「マンガの神様」手塚氏の子育ては、育ちの良さは否めないものの多くの家庭と同様悪戦苦闘。ご多忙であったことを考えると特に、いかな天才であろうとも、天才であろうからこそ、現代の都会の核家族家庭での子育ては大変であったろうと想像できる。また、ここに描かれているのはほぼ私の子供の頃であり、それらのイメージにピタリと収まるエピソードの数々。そしてどうやら見事な戯画化はあっても美化も卑下もしていないように思える。さらっと読むと、どうということのない作品のようでもあるが・・・よくできた「おはなし」ということで私の子供時代などに読んでいたなら、たいくつにしか感じなかったであろうが、どこまでも人間らしい故に逆に「マンガの神様」だって思わされる作品。ご本人は嫌だったであろうが。


文庫版にはさらに10数年さかのぼった、眞氏が生まれた頃に描かれたらしい「ごめんねママ」という2ページ構成の古典的な大人マンガスタイルの子育てものも収録されていて、これも見事。両方の作品から、作者あとがきにもある、「エンターティメントに徹したい」という姿勢の結実も味わえる。ネタの豊かさ、構成、ネタの扱いの見事さ。


そして、それらすべてひっくるめて、ドキュメンタリーとしてもぐいぐい迫ってくる。
しかし、俺たちの子供時代って、なんだったんだろう。自分らも、その後の世代も、本質的に変わったわけではないかもしれないが。