「うつうつひでお日記」

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

去年読んだ「失踪日記」について私がここの日記に書いていたのを読み返したら、「読んだ」というだけだった・・・。


その「失踪日記」が大評判、大ヒットした吾妻ひでおさんの、その「失踪日記」を執筆していたあたり、まだその印税は入っていない頃の、「失踪」時よりはかなり社会復帰してはいても、まだまだかつての人気漫画家とは思えぬ貧乏暇有り生活の様子を描いた日記、って、これはネタバレとかなんとかでは、ないよね。


現在のマンガ界はどうかわからないけれど、かつてのマンガ雑誌の世界のイメージは、売れたら馬車馬のように働いてマンガを量産し、それでもたくましく生き続けるひとと、消耗してリタイアしてしまうひとがいるというようなものだった。人気商売は他でも似たような要素はあるだろうが、マンガの世界はなかなか過酷なものだというイメージがある。
吾妻ひでお氏は、人気の最前線からリタイアしていく最悪のパターンではなく、マニアックな世界に上手に転身していったタイプのように思えたけれど、さらにしばらくして「失踪」することになった、結局リタイアしたひと、などと言えるかもしれない。でも、復活した。


・・・読んで幸福になった。
うつうつひでお日記」のオビにあるように「こんなやつにだけはなりたくない」と思って癒されるわけではないが、元気になる。なにか大変「正しい」感じがする。
どちらにも創作の世界の舞台裏(半分脳内)がわかりやすくかつリアリティを持って描かれている。恐ろしい現代での流転する日常が描かれ劇的な「失踪日記」に対して、鬱にはなるもののどうにか安全でゆるい「うつうつひでお日記」。
失踪日記」には多くの貧しいふつうのひとの、ある種「底辺の」と、言ったら失礼かな。困窮した生活も描かれている。じつはこれは滅多に描かれない世界だったりする。知識人、しかもある程度成功している人には縁のない世界だからな。さらに壮絶な「失踪」と「アル中」生活はさらにそれどころではないが。
うつうつひでお日記」は、もうちょっとよくある生活。仕事が少ないときの私の生活に近い。ふつうのひとよりかなり自由時間が多いのだけれど、テレビの話題なんかは普通なところなどもあって、たとえば総合格闘技の話題とか、お笑いブームの話題とか、「あ、この試合俺も見てたな」「さまぁ〜ず爆笑問題が好きなのは俺と同じだ」などなど、えらく身近に感じる。どころか、これらの話題は、今後何度読んでも自分の記憶に重なって懐かしい感じがするだろう。単に私と趣味が近いからというより、04年から05年というついこの間の、極めて正確な時代のスケッチなので、私にも共感できるということなのだろうと思う。
いずれにしろ、高いところからものを見ているのではないために、この世界がどんなものか、より正しく描いているような気がする。


死んでもおかしくなかった「失踪日記」を読み返すのはちょっと怖いが、「うつうつひでお日記」は、時々読み返そうと思っている。