「ペット」

ペット 1 (ビッグコミックス)

ペット 1 (ビッグコミックス)

三宅乱丈さんの代表作はまだ「ぶっせん」ということになってしまうのかもしれず、その「ぶっせん」がなんとなく面白かったような気はするものの連載時に読んだ記憶しかないので比較は出来ないが、「ペット」はもっともっと読まれてよかったと思える。・・・古本屋にずらっと並ぶくらい・・・。

心象風景の描写が極めて鮮烈。読者の目線を登場人物のなかに引き込むような物語の描き方・・・ロードムービーのようにカメラがドラマの現場のまっただ中に置かれている臨場感がすごい。惜しいのは、ラストで物語の構造を見せてしまったような感じがあり、テーマを完結させることもその内容も悪くはないにしても、最後にカメラが遠くなってしまった感じがしたこと。
しかしそれを差し引いても充分満足。「ロードムービーのよう」とは書いてみたものの、ヴィム・ヴェンダースやウォン・カーヴァイ(これらの「ヴ」は合っているのか?)をちょっと見たのをロードムービーだと思っているだけだ。ヴェンダースやカーヴァイは好きな監督たちだが、おそらく手法としてロードムービー的な方法を取り入れただけの無責任な作家も多かっただろう。「ペット」にはそんなでたらめさはいささかもないと、書いておきたい。だからこその臨場感。

アクが強い絵柄には、抵抗がある人が多いかもしれない。Gペンなのか筆の類も使っているのか、丸ペンロットリングで書いたような均一化された線とは真逆の時に荒々しくも感じられる・・・汚いなどと思う人も多いかもしれない。江口寿史鳥山明を思い出せる人はその反対だと思ってほしい。白土三平を思い出せる人は、その線をもっと粘り着くような感じにしたものと思ってほしい。現在の漫画界の主流にも(亜流にも?)ない、独特の絵。
キャラクターの造形では、厚い唇と、でかい鼻。岡野玲子に似ている気がするのでアシスタントだったのかもしれないと思うが、さらにくどい。というか岡野玲子はくどくはないが、三宅乱丈はくどい、と、いうか。思えば少女漫画でも少年漫画でも鼻や唇は描かれないことも多いか・・。クチビルと言えば、「きんどーちゃん」(!)だが・・・。
そのアクの強い絵柄の表現力は、視点、構図、コマ割りにわたって自在。この自在さにも、岡野玲子に通じるところがあるのかな。しかし二人の関係が本当になら、似ていると同時に、全く違う、なんと幸運な出会いだろう!