「諸葛孔明 時の地平線」

諸葛孔明時の地平線 13 (プチフラワーコミックス)

諸葛孔明時の地平線 13 (プチフラワーコミックス)

三国志といえば、横山光輝のマンガ。子どもの頃は好きだったが、もうすでに古いと思っていた。歴史にも興味はなかった。そういうわけで、関心がなかった。読めば面白かったのだろうけれど。1972〜87に連載されていたらしい。弟が読んでいたはずだ。当時、20年〜10年くらい前までの日本の子どもたちの歴史への関心を最も惹きつけた作品であっただろうが、私はもう子どもではなく、興味があったのは現在と未来だった。
30代なかば以降にマンガ「蒼天航路」やゲーム「真三国無双」のために三国志に熱中し、北方謙三の小説版を読み終えたあたりで収まった。片山まさゆきの「SWEET三国志」が結構好きだったな。
とりあえず「蒼天航路」は完結した昨年まで読んでいたが、吉川英治横山光輝も途中まででやめた。醒めやすい私はマニアにはならなかったが、手当たり次第読んだもののうち「諸葛孔明 時の地平線」はまだ続いており、これだけは読み続けている。

蒼天航路」も「真三国無双」も悪くいえば流血の連続で、この戦国時代は実際にそういう時代であり、ふだん血なまぐさいものを嫌っている私であるが、おそらくそれゆえに逆に熱中してしまったのだろう。知識の空白の大きな部分を埋めるのに、これほど適当な題材はなかっただろう。
諸葛孔明 時の地平線」は三国志であればなんでも面白かったために読んでいたものでもあり、最も穏健な、優しい内容だ。当初生ぬるく、実態ともっともかけはなれているようにも思えたが、読み続けているうちに、伝えられる歴史の事実から共感できる人物像を紡ぎ出そうとする試みのていねいさにだんだんと惹きつけられてきた。
諸葛亮が主人公だからだろうが、鳳(当て字)統がこれほど細かく描かれたことも少なかっただろうし、次いで馬謖馬良、諸葛謹、司馬懿・・・死を迎えた曹操などが意外な形で描かれている。恣意的解釈だ、などの非難があるかもしれない、ないかもしれないが、よく知られたエピソードから少しずつ外れた部分に焦点を当て、ねばり強く独自の光の当て方をしており、それが精緻にできあがっていると思う。

中国の三国時代、日本の戦国時代、それぞれの国でいずれも定型的なアウトラインで記憶されているような気がする。しかし少なくとも日本では歴史に新鮮なイメージを与え始めている。中国ではまた事情が別だろうが、文化状況が暗黒のままではないだろう。欧米などは暗黒すぎ、侵略しすぎでどうするものかとも思うが、なにか新しい見方が生まれるだろう。
これらは、危機を迎えた新世紀の明るい兆しになるだろうし、こんなマンガ作品も、その輝きのひとつだろう。