「月館の殺人」

月館の殺人 上 IKKI COMICS

月館の殺人 上 IKKI COMICS

月館の殺人 (下)??

月館の殺人 (下)??

私の憧れ、北海道の誇り(?)佐々木倫子さんのマンガは一種独特だ。
アンチドラマチック、アンチロマンチック、と、言えなくないにしても、それはマンガや小説や物語がそもそもドラマチックでロマンチックなのが当たり前だとすることからそう思えるのでもある。
超傑作「動物のお医者さん」の、淡々とした語り口の新鮮さは忘れられない。ある種ただの日常描写が、こんなに面白いとは。ただのイカを干したものがこんなにおいしいとは、というスルメのような味わいが、このひとのマンガの魅力。いや、イカは生で食べてもおいしいから、おいしいイカを捕まえる腕も持っているに違いないものでもある。ふつうにいそうなちょっと面白いひとの、面白さのエキス抽出技術では随一。


時刻表トリックやら密室トリックといった鉄道系ミステリといえばその通りなので佐々木倫子の出番はなさそうだが、テツ(鉄道おたく?)ネタ、しかもつまりは奇妙な人々としての「テツ」ネタということで描写力バリバリ全開(?)だ。
しかしはたして佐々木さんひとりの作品ならいいものの、原作のミステリ作家としてはどうなのか、ロマンチックなペンネームのような気がするが・・・独特のリズム感は佐々木作品そのもの。ちょっと原作の綾辻さんに申し訳ないか・・・。と、いってもこんな舞台設定はめずらしく、あるいは映像的な要素が強くなっている気もするが。


さらに、テツ要素に関して、これがIKKI連載であったことは無縁ではない。出たときにすぐ買った上巻を読んだときには「鉄子の旅」未読だったのが、この度遅ればせながら(実はちょっと情感は期待はずれだった。)下巻を読んだときには全巻読破後で、テツネタ及びその供給システムに予備知識が出来ていた。ネタの面白さは倍増し、コラボレーションの舞台裏もより楽しめ、そもそも佐々木ファンなので普通の人よりずっと楽しめたとすれば、この作品の真価はまったくわからない。
原作者の方のファンにとっても佐々木ファンにとってもある種期待はずれなのかも知れないと思いつつも、さらに装幀の祖父江ファンの楽しみも加えてちょっと複雑に楽しむことになった私はなにか妙に深く満足したものでもあった。


わけがわかりませんな。