「ゼリービーンズ」

ゼリービーンズ (アニメージュコミックス)

ゼリービーンズ (アニメージュコミックス)

懐かしい一冊。「サイゴーさんの幸せ」の次に、なんとなく読んだ。初版を持っていて、昔(もう22年前?)は短いこともあって繰り返し読んだけれど、今回は何年ぶりだろう・・・。
ふくやまけいこさんの代表作かも知れない。なかよし連載の2作品の方が今では有名かもしれない。それ以前では「東京物語」もあるかな。


衝撃的なデビュー作と言ってもいいかも知れない。難しすぎない、けれどもはっとさせるようなSF的設定。ちょっと安易だけれど、気にならない。ネタ元がありそうな、懐かしい感じの海外ドラマシリーズのエッセンスが、ある意味ちょっと露骨に出てきているようだけれど、それが効果的に記憶のツボを刺激するというか・・・。褒めたことにならない?


思ったより無茶苦茶な話しのような気がしたが、20年ちょっと前にはフィクションももうすこし伸び伸びとしていたようでもあり、ある意味世の中は今よりデタラメな部分もあったけれど、逆切れとか、金の亡者が法律上は悪くないと開き直るとか、各種大量詐欺事件といったようなことは、今より少なかったか。金属の盗難はどうしてこんなに、罪の意識が浅くて済むのか。つまらない世の中になったのは何故だ。自分がつまらない中年になったからか。


登場人物の気持ちがすっと伝わる。魅力的なキャラクター、絵も、台詞も。
すごく上手な絵というわけではないが、これほど魅力的な絵を描ける人はなかなかいないだろう。パラパラめくって見つけたエリス(主人公のひとりの女の子)の怒った顔の表情の豊かさ!ここまで見事に怒った顔はマンガで案外見かけられない。こんなに表情豊かな絵は・・・。背景も、何もかもカット一つ一つ変化に満ちて、この人の作品にしか見られない魅力に溢れている。まとまり感に欠ける、と、言えなくもないが違和感はなく、その変化の面白さのことを考えれば何でもない。
台詞の数々は不器用な感じだと思っていたが、実は自由自在ではないか。
デビュー作に全てがあるなんて言うけれど・・・作家としてはこれは厳しい言葉だけれど・・・。


豊かな日本のマンガ文化でも、最も瑞々しい才能の発露の一つではないか。これを何度も愛読した若い頃の私を誉めてあげたい。