「密林少年」

密林少年 2 (ヤングジャンプコミックス)

密林少年 2 (ヤングジャンプコミックス)

深谷陽さんは「アキオ紀行」シリーズや、「運び屋ケン」などで知られる、東南アジアなどの「第三世界」にくわしいマンガ家だ、と、言ったらちょっと嫌な感じだろうか。
独特の絵柄は好き嫌いが多いだろうが、初めてモーニング誌で見たときは、はっとした。何だろう。太さに変化のない、輪郭をなぞったような描線。そのわりに、グラフィカルな感じではなく、骨格などをよく表している。デッサンなどの訓練をしていて、逆にマンガらしい絵の練習はあまりしていないような。骨格もそうだが、眼を「球体」として描いているようなところが特に目立つかも知れない。デッサン力はあるのだろうが、それをあまり使おうとしているようでもない。
などということは、まあ、いい。


本作はカンボジアに実在する青年をモデルに脚色した作品。この国の20世紀に関してなにかは知っている人なら、読むとそのことに関係したことが書かれている。ひどい事々が、その渦中の視点で描かれている。主人公はすごいけれど、その辺はさらっとしか書かれていない。
「この手のもの」として、特に優れているかどうかはわからない。素朴な絵、マンガ表現、筋書き。しかしこの絵柄などは、表現内容と結びついているようでもある。もっとなめらかな、鮮やかなマンガ表現で描くことも出来るだろうが、内容に余計なものが付け加わってしまうかも知れない。
こういう人と出会い、素直に表現できると言うことが、深谷陽さんというひとの凄さでもある。日本のマンガ表現の成熟、洗練と無縁な人ではないにしても、そればかりでない、単なる事実と近い、素朴な表現である・・・しかも単にジャーナリスティックということとも違う・・・・強さと言うこともあるのだ。