シェーンベルク「グレの歌」

変なCDを買ってしまった。BookOffで安かったんだ。
ストコフスキー指揮、フィラデルフィア管弦楽団シェーンベルクグレの歌」。1911年の作曲、1932年の録音。
500円。

2枚組であることには最初は気付かなかった。「得したな」と思うと同時に嫌な予感が。
ワーグナーがあまり好きではないのだ。あの長ったらしいスケールの大きさに何か違和感が。誇大妄想の気配か。
ワーグナーをそれほど知らない。コンサートピースとして良く取り上げられる「トリスタンとイゾルデ」からの「前奏曲と愛の死」くらいしか知らず、それで充分とさえ思っていた。それさえ知っていればドビュッシーの「ゴリウォークのケークウォーク」の中に「トリスタン動機」(?)が出て来る事も楽しめる。
あの有名な「ワルキューレの騎行」なら血湧き肉踊るかというと、何か貧乏くさい気がしてしまう。
他はほとんど知らない。昔深夜のFMで「ニーベルングの指環」を延々とやっていたのを少し聴いた事があったような気がするが・・・。何か無意味に時が過ぎていく感じが・・・。
長いものには巻かれたくない・・・。テレビコマーシャルとポップソングに集中力を育てられ、気が短い・・・。

とはいえワーグナーがいなければドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」もなく、シェーンベルクも、あるいはストラヴィンスキーもあのような音楽を作らなかったのだろうか。
などと考え最近は嫌いなものでも聴こうとは思っているが・・・。


2回目を聴きながら書いている。さっきは茶わんを洗いながら流していた。
冒頭だけは本を読みながら少しはちゃんと聴いていたが、ワーグナーを連想してしまう。12音技法の創始者も初期にはこんな感じだったのか。冒頭は「女性的な」感じ、などという言葉を連想した。5分くらい同じようなものが続く。例えば不思議な森に迷い込んだと思えばたいくつでもないのか、というような映像を換気させられる音楽だが、これにちゃんとつきあって聴くには心と時間の余裕がいる。
新しさは特に感じない。ストラヴィンスキーの「火の鳥」の翌年、「ペトルーシュカ」の年、「春の祭典」の2年前。バルトークの「青ひげ公の城」の年。1900年から作曲に着手して11年かかったとはいえ、「牧神の午後への前奏曲」が1894年だ。
ストーリーもライナーによると「健気な女性の命を捨てた愛によって救済されるという、まったく男のご都合主義のドラマ」だというなら、ワーグナーそのものを聴けばいいような気がする。しかしそれは気鬱だし、そんな暇も金もない。
まあ、こんなものを聴いてみるのもいいだろう。

ワーグナー風だけれど、モチーフの繰り返しがしつこい感じのワーグナーよりは構成やオーケストレーションがしっかりしている感じがするが、かえって古典的な印象を与えるかもしれない。音楽は(ドラマはわからない)ワーグナーよりは好きかも知れないがストラヴィンスキーバルトークドビュッシーの方がいいなあ。後年のシェーンベルクやベルク、ウェーベルンの方が面白い。


ストコフスキーの指揮。後年ディズニーの「ファンタジア」の音楽を担当したり、リムスキー=コルサコフラヴェルと並んでムソルグスキーの「展覧会の絵」の編曲者としても知られている・・・。いかにも彼に相応しい音楽のような感じもするが、そのことを書くのに他意はない。


1911年の完成、3年後には第一次世界大戦(欧州大戦?)が勃発するという時に、よりによってその中心地に近いウィーンで、バルトークなどとくらべてなんと脳天気な音楽だろうかと思わないでもないが、それは1900年の構想という事で納得できるだろうか。900万人の死者を出したという。1932年の録音というのは第一次大戦後14年。第二次世界大戦が始まる7年前。第二次大戦の犠牲者数は世界でおよそ6,000万人だったそうだ。(戦争における死者の数はWikipediaによる)