北京オリンピック

私はオリンピックなどというものには関心がないほうだろう。が、見てしまったらそれなりに面白い事もある。


さっきは女子サッカーノルウェー戦をたまたま後半から見たが、1対1から、なんと5対1で勝ってしまうまで見て、それはやはりいいものであった。なんというか、サッカーであんな試合ができた時は、きっと、夢を見ているような気分だろう。テレビの観客に取っても、まさに見たいものを見ることができた、ウソのような時間だった。
もしかしたらそれはある意味恐ろしいもので、夢で終わるとその後の調子を狂わせるようなことになるかもしれず、しかし、たぶん、勝つ事で学ぶ事の方が多いだろう。
しかし、リードを保っていることの優位を見事に活かし切っている様子は、鳥肌が立つような感覚だった。ノルウェーも、かのチームにしては良くなかったのだろうが、それにしても、ある種運命の歯車のかみ合い方か、と思えた。

谷本歩実の試合は録画で見た。柔道女子63キロ級金メダル。
テレビの観客としては立ち技での勝利を期待するものの、ほとんどが寝技での勝利、しかしすべて一本勝ちだ。なんという強さ。安定感。
そして決勝での見事な勝利。あれも内股というのか。180度以上からだが回転したように見えた。相手のデコスというフランスの選手が、負けたあとしばらく畳の上に座ったまま呆然としていたのも印象的だった。
そして、谷本歩実という人は、なんと気持ちのいい表情、言葉のひとだろう。真直ぐに伸びた木のような。



開会式も見たのだった。不思議な光景だった。

福田首相サルコジ大統領もなにかそのへんの会社の部長かなんかにしか見えない。小さな国の実力も乏しいかも知れない旗手の、しかし立ち振る舞いが美しいひとには及ぶべくもない。ブッシュ大統領は案外ああいう場所でのプレゼンターには似合うだろう。ただし、口を開かなければ、だろうか。

なんにしても多くの国のひとびとが、まがりなりにも平等を謳歌する光景には違いない。民族衣装の美しさ。ひとびとの顔のちがい、その違いは、やはり美しい。スポーツ選手というもの、代表として立つ度量、やはりそれは顔にも出るのだろう。と、いうか、人間というものは本来は美しいのだ。きっと。
とはいえ、リーフェンシュタールが撮ったというベルリンオリンピックの映像が美しいらしい、という、変な連想をしてしまうものでもあるが。
日本のグラフィックデザイン史で最も有名なものは、東京オリンピック亀倉雄策によるポスターだという事も思い出し、私は実はいちおう編集・グラフィックデザイナーなんだなという変な事に気付いたものの、全く関係がない事甚だしい。

そんなことで、えんえんと続く入場行進は実は全然見飽きなかった。世界中で人びとは生きていて、そんなことを普段忘れていることに気付く。
私はいまだに最も豊かな国の貧困層(こんなところでネットなどやっているが、実は完全に貧困層なのだ)のひとりとして、貧しい国にシンパシーを抱いているが、貧しい国の選手は総じて美しい気がした。そのような国では最も恵まれた層のひとたちなのかもしれないが。
最も醜かったのは中国選手団のように思えたが、しかしそれはなぜか男子選手ばかり映されたことや、衣装のダサさもあってだろう。しかしそれだけでもあるまい。かの国は日本以上に「勝ち組」がはっきりしていて、そのありようはあまり美しいものではない気がする。
日本選手は、中くらいの美しさはあったのではないか。それよりはちょっとマシか。旗手をつとめた卓球の愛ちゃん、福原愛というひとはやはり美しいのだ。実力もさることながら、不自然な環境の中で自然体を維持していること、とんでもないことだ。
最もおどろいたのはインドの選手団の少なさ。世界第2の人口を擁する国の選手は57名だそうだ。人口大国は、スポーツ後進国。しかも、際立っている。今までに取った金メダルはホッケーだけですよ。
それにしも、世界第2位とか3位とかいう経済大国で、サミットなんてわけのわからないものに参加してしまう国というものが、世界ではあたりまえではない、ということを感じた。当然なんだが。

行進に先立つセレモニーの演出は張芸謀チャン・イーモウ)。中国を代表する映画監督だ。ずいぶん前の出世作紅いコーリャン」を見ただけだが、日本でいえば北野武に似ているかも知れない、印象的な映像のひとだ。独特の世界を描いていたのに、今ではハリウッド監督と変わらなくなったと揶揄される事も多いが、オリンピックのセレモニーは知的な演出だった。人海戦術のようなものが圧巻であったが、北朝鮮マスゲームのような反知性的なものではない。成り金趣味でもなく、伝統と先端技術の優れたハイブリッドのあり方も示していた。



グルジアのも、ロシアのものも、行進を見た。開会式が終わってすぐのニュースで、南オセチアで両国が軍事衝突をしている関連の報道があった。
闇に赤く光る砲火の映像。