ブラジル

ブラジルといえば、ボサノバ。
アントニオ・カルロス・ジョビンというひとが、よーく知っているあの曲、この曲の作曲者だったことを知ったときは意外だった。「イパネマの娘」「ワン・ノート・サンバ」「ウェイブ」。作曲はジョビンであるものの、ボサノバという音楽のスタイルを作ったのはむしろジョアン・ジルベルトなのだろうか。このふたりで作ったとも言える。
ボサノバに関してそんなことを知るずっと以前から、ボサノバの独特の雰囲気、けだるいというか、リラックスしたようなしかしほの暗い感じには何か親近感を感じていたような気がする。しかし、思えばロックなんかとは全く方向性が違うようであり、ロックはアフリカのリズムの子孫であるというよりもどちらかというとベートーヴェンの末裔のような気もしてきた。「ベートーヴェンをぶっとばせ」なんては言っていたけれど、あのエネルギーの充実はクラシック音楽の流れだ。と、ふと思ったが、書いてからさすがにそんなことはないかと思いなおしてはいるが。
むしろ、ジョビンの建築的だといわれるようなコンポジションの洗練はワーグナーなどから始まった半音階のアクロバティックな冒険の歴史の到達点のひとつとも思えるが、私にとってはワーグナーよりもジョビンが重要なんだけれど・・・。なんてことを書いていると、エイトル・ヴィラ=ロボスなんて名前を思い出す。すばらしい「ショーロス第1番」。それ以外はあまり知らず、「ブラジル風バッハ」(何というタイトル!)のいくつかは以前聴いたときはあまりピンと来なかったものの、最近ちょっと聴いてみたところ、ひきこまれそうな予感がしている。最近は(なぜか)ハチャトゥリアンと並んで気になる作曲家・・・。
急にまたジョビンからあたらしい時間の流れに向かうと、MPBなんて呼ばれたミュージシャンたちを思い出すのだけれど、まずは、カエターノ・ヴェローゾ。とはいえ、「リーヴロ」というアルバムの冒頭の曲にガツンとやられた記憶ほどのものに、その後は出会いはしなかったものの、好きなミュージシャンには変わりはしない。そして、ミルトン・ナシメント。このひとはとにかく「トラヴェシア」。この言葉を思い出すだけで、イントロが頭の中に流れ出し、夢を見るような気持ちになる。古今東西、最も好きな曲かも知れない・・・。ほかにはトニーニョ・オルタのギターの音色・・・とにかく、なんと豊かな・・・。
ジョビンやボサノバからいまさらのように遡る、ヴィラ=ロボスと違った流れは、サンバ。カーニバルという言葉にさほど何かを感じるわけではなく、思い出すのはジョアン・ジルベルトで、彼の、古今東西最もお買い得ではないかと思われるアルバム、「ジョアン・ジルベルトの伝説」の中のサンバのことを思い出し、いつかそこからたどってサンバの名曲を聴いてみたいものだと思うのだけれど、そんな機会はいつか訪れるだろうか。さらに、私の「ジョアン・ジルベルトの伝説」は、貸したまま戻ってこないうちに貸した相手と疎遠になってしまったまま・・・。


と、いうところでスペインのこと、その国の音楽の豊かさも思い出したのだけれど、ふと思うのはスペインの、ロドリーゴよりあとの音楽の印象が少ないことで、何か寂しい気持ちになった。ビクトル・エリセの映画の音楽を書いたひとのことは思い出したのだけれど・・・。
その後にふたたびブラジルに思いを巡らし、その、上に書いただけではとうてい書き切れていようはずがないその豊かさ、その時空に拡がる多様な広がりに、人類の歴史における南米の業の深さと、自然の深さとの関連を、こじつけのようだけれど思った。

エリス&トム

エリス&トム

ジョアン・ジルベルトの伝説

ジョアン・ジルベルトの伝説

リーヴロ

リーヴロ

トラヴェシア

トラヴェシア

ヴィラ=ロボス:ブラジル風のバッハより第2番、第5番、第6番&第9番

ヴィラ=ロボス:ブラジル風のバッハより第2番、第5番、第6番&第9番