若杉弘さん追悼

たとえば、小澤征爾さんのようには、または岩城宏之さんのようにも派手なところがなく、チェックし損ねる存在。しかし若杉弘さんは何か気になっていた。
と、いっても、オザワやイワキを気にしていたのも、そもそも大きなオーケストラの曲を熱心に追っていたのも、たぶん10年以上前のこと。
当時、なんとなくカラヤンが好きになれず、ベームの方が好きで、でもその理由がはっきりしているわけではなく、でもアバドもラトルもなんかいいのじゃないかとは思っていた。
オザワは少しだけカラヤンっぽいのが引っかかるけれど、サイトウ・キネンの躍動感と(ブラームスが好きだったのと)、あとは武満徹さんの曲といえばまず小澤征爾だったから、愛聴した。あとは、武満氏との対談「音楽」の読後感の胸のすくような感じ。
また、岩城宏之さんの初演マニアとか言われるような部分は好きで、さらになんかあっさりしていて好きな演奏を聴いた覚えがあるかも知れないし、このふたりの著書は何冊か読んだ。あと、何人か印象に残っているけれど・・・クライバー・・・佐渡・・・結局はオザワと、実はブーレーズ指揮の盤を多く持っているのだけれど・・・。


若杉弘さんが最初に気になったのは、小澤征爾さんと並んで武満徹のディスクの指揮者として名前をよく見かけたことだったと思う。そのうち、音楽雑誌か何かでオペラの指揮者として名高いことを読んだような気もする。日本人で、日本ではそんなに有名ではないのに、オペラで評価が高いとは・・・。小澤さんなどより、ツウに好まれそうな感じ・・・。
あとは、N響アワーだろうけれど、指揮をしている映像を見たときの、指揮棒の動きの繊細さ、またその棒の動きと音楽がぴったりと結びついている感じが印象深かった。あるいは、バトンテクニックは世界的にも随一だったのではないか。私などに知れたことではないのだが。


昨日そのN響アワーで追悼番組があるのを忘れていて、最後のところだけ見た。それなのに追悼などというタイトルで書くのは申し訳ないが。
今調べてみると、「弦楽のためのレクイエム」が最後にN響を指揮した曲で、その演奏から番組が始まり、「歌劇「ウォツェック」の3つの断章から第1曲」とあるのはベルクだろうか。これらを聞き逃したのは音楽ファンとしては痛恨。
最後がマーラーで、「交響曲第9番」から第4楽章、であった。マーラーの、その最後の楽章の、そのまたほんの一部を聴いただけだったが、心にしみ通るような音色の音楽。マーラーにはエキセントリックな、錯綜したイメージを持っていたのだが、その演奏からは透徹した目で真実を見いだしたような迷いのない音楽に感じられた。これならマーラーも聴いてみたいと思ったけれど、それは若杉氏の境地でもあっただろうか。


美しい人がいるのだ、と、思った。

若杉/都響 マーラー交響曲全集

若杉/都響 マーラー交響曲全集