無能な人 1

何をやってるんだ、ついに無能宣言かよ、と、自分に毒づいてみる。
何をしたいのかというと、自分のことを書きたいのであって、つまり無能なのは私なのです。
無能の人」というタイトルにしなかったのはつげ義春さんへのリスペクト(?)なのだけれど、つげさんの傑作と同じタイトルにするのはおこがましいので少し変えたのです。さんづけもおこがましいけれど、そういう意味ではないのです。


以前は「病んだ魂」というタイトルでずっとぐだぐだと書いていたが、それはニルヴァーナの伝記的な本の邦題らしくて、それが気になってきていた。あと、私はいまだに心を病んでいるとは思うものの、ほんとうに大変なひとにくらべると、きっとたいしたことはないのだと思うわけで、このキーワードでグーグルで検索すると20位台にくるのは申し訳ない。
このタイトルの書き込みを22回続けた。最後の22回目は、「私の文章というのは常軌を逸していて、直接に接していないひとからすると異常に違いない。」なんてフレーズから始まっている。だいたい2年前から1年前まで書いていたのだが、最初の、2年前のものは「人間というものはひとりでは人間であり得ない。」などということばから始まっている。次の段落には「精神を病むと言うが、実はその当人が病むだけではなく、社会との関連性も病む。」などと書いている。
この時期がどういう時期と重なっていたかというと、私の父の癌がわかって、亡くなる頃までの1年間だ。こういうことを書くことが、読む人にどういう印象を与えるのか、わからない。
井上陽水のうたに、暗い人には会いたくもないというような歌詞があったような気がするが、その歌を、札幌のどこかの、郊外型のショッピングセンターで聞いて歌詞を意識して苦い気持ちになった覚えがある。自分に会いたい人はいないだろうなあと感じたからだ。それは、そうかもしれないけれど、たいしたことでもないということも、わかってきた。会いたくない人というほどでもなさそうだが、よくわからない。
私が暗い気持ちの中をさまよっていた頃に、音楽仲間から、深刻な話は、ひとに少しずつ聞いてもらうようにした方がいい、というような話を聞いたこともあった。受け取るのが難しいから、だったか、そうしたら、いっしょに考えられる、だったか。それは優れた知恵だと思ったが、今の私にはそれは無理だ、と、思った覚えがある。しかし、その言葉は思い出す度にあたたかい言葉になってきている。私が車を運転していて、夜だった。


次に「私は誰だ」なんていうタイトルにしてまたぐだぐだと書いてきて、これはこれでそこそこ意味があるのだろうけれど、なにか嫌になってきた。このキーワードでグーグルで検索すると10位台にくる。などと、何をやっているのだか。
そのタイトルで最初は去年の4月の下旬。このときには自分は病から抜け出たような気持ちで書いているが、かなり過労である状態が続いていて、やっとすこしだけひと息ついただけ、その後も過労もつづいていた。心労はまだまだ続いていた。2ヶ月で仕事をやめた。その後ひと月は在職していたが、何もしなかった。そうして過労から抜けてやっと休めてしばらくの間、過労に追い込まれていた事へのいらだちが何日か不眠を招いたりした。眠ろうという心の動きができなかったくせが、かなり抜けなかった、と、今は思う。
最後の16回目はひと月ちょっと前「正味のところ、私はまともな人間じゃあないということを受け入れなければならないのかなあ」なんて書いている。何が、正味のところ、だ。


なんてことを書くつもりじゃあなかったのだが、つまり「無能な人」というタイトルで自分のことや似たようなひと(不特定)ことを書いてみようかと思っているのであって、「病んだ魂」とか「私は誰だ」なんていうタイトルより、今はしっくりくるなあ、と、思ったのであって、それにはつげ作品が関係しているのだった。
無能の人」は、悲壮だ。諦観? 井上井月という人のエピソードで終わる。
種田山頭火を思い出したが、ちょっと違うかもしれないが、貧乏は同じだ。
円空も思い出したが、だんだん話がずれてきて、全然無能じゃあない。
しかし、山頭火も井月も無能じゃあないな。つげ義春ももちろんそうだ。
どちらかというと天才だなあ。
私もこんな人たちほどじゃあないが、無能というほど能力がないわけじゃあない。もちろん天才なわけはないが。まあでも、なんか能力があるけれど生活の役に立たなくて貧乏になってしまうのは同じだ。
なんて書くのは自負ではない。世をすねてはいる。
あとは、たぶん「無能の人」があるおかげで、こんな自分はそんなに嫌ではないのかもしれず、それが悪いのかもしれないと思わないではないが、たぶん、そんなことはないだろう。自分が嫌いなよりは、そうではないほうがいいに決まっているので、重ねてつげ義春さんへリスペクト(?)したいと思うのだ。

つげ義春コレクション 近所の景色/無能の人 (ちくま文庫)

つげ義春コレクション 近所の景色/無能の人 (ちくま文庫)