サムシング

片道1時間かけて自家用車で通勤している。
今年は、なのか霧の中を走ることが多いが、特に暗く霧が濃いある日、ポール・マッカートニーがたぶん演奏したライブの「サムシング」が、ラジオでかかった。
なんていい曲なんだろう。
歌詞はよくわからない。フランク・シナトラが20世紀最高のラヴ・ソングだ、などと言ったらしい。ウィキペディアに書いてあった。ということはラヴ・ソングで、スローだからラヴ・バラッドとかいうのだろうか。
この曲は、何がいいのだろう。
イントロからすでに異次元に入っていく気さえする。主に半音で、狭い音程の間をうつろういくつかの音。うたが始まって最初のいくつかの音は同じ高さだ。そしてやはり狭い音程のなかの半音をうめていくような動き。それからだんだんと動きだし、ダイナミックになっていく。
オリジナルのギター・ソロは誰なんだろうな。これも、ブルース・ギターなんだろうか。しかし、例えばサンタナのギターなんかと似ているところがあるのかもしれないが、とにかく曲全体のフィーリングが何か夢うつつのような感じであり、はっきり言葉になりにくい感情がはっきりしないまま定着されているような、こんなものに似た表現には他にほとんど出会ったことがないかもしれない。
歌詞を調べてみる。「ビートルズ詩集」なんて本を持っているのだ。訳詞はいいのかどうかわからない。岩谷宏さんは素直な言葉にしたかったのかな。ちょっとだけニュアンスが違う気がするものの、訳とはそういうものか。
「わからない」ということば(岩谷訳ではちょっと違う)がくりかえされるところがあって、ギター・ソロにつづく。もともとはインストゥルメンタルのジャム演奏がもっと長く続いて8分の曲だったのをカットしたらしいが、しかしそんなのは意外なほど、発表された形は完璧なカットの宝石のように感じられる。とはいえ、セッションがつづく様子を想像できなくもないし、そういう音源が聴けないのか、という気もする。
ポールらしい演奏も小粋で、最初はちょっと気付かなかったのがサムシングだとわかったときは、うれしい驚きを感じた。そのアコースティックでリズミカルなギター伴奏からそのうちオリジナルに近いけれどヴェテランの余裕を感じさせるバンド・サウンドに移り変わっていくあたりから、すっかり幸福な気持ちになってしまった。長い通勤時間も悪いわけではないようなのだ。
なんて、曲を知ってから長いあいだに、そんな幸福な存在に感じられるようになったこの曲だが、不安が、不安とも言えないような形容しがたい感情がメロディーと歌詞によって作られている。
ひとに魅せられ、逃れられなくなる。それはとんでもなく不思議で、あたりまえのことだ。そんな感じが奇跡のようにここにあらわれている。

アビイ・ロード

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バック・イン・ザ・U.S. ?ライヴ2002

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