今様

大河ドラマを今年も見ている。去年の『江』は、最後の2、3話を前に力尽きたのだけれど、それは話の内容のためではない。とはいえ、続けていた習慣がとぎれるとそのままやめがちなところを止めなかったのは、予告がそれなりに面白そうに感じられたからで、評判の悪いらしい汚いという画面が私は気になったのだった。


平清盛は、日本列島の歴史上、武士による最初の政権と言えるかもしれない状態を作った者らしいのではある。
私は最近「武士の世」を「軍事政権」と頭の中で言い換えたりするのを好んでいるが、たいした意味はないのかもしれない。が、まあ、そんなことで見てしまっている。
封建制」などという言葉もある。が、それは頻繁に使われ、聞いてきた割にはさっぱりわからない言葉だ。
ちょっといろいろ調べてみたが、私のとらえ方は極端なようでもある。軍人が権力を掌握すれば軍事政権だとすると、歴史の上ではほとんどがそうなってしまうので、それをことさら述べるのは奇妙かもしれない。
武士が権力掌握する以前の日本の権力状況をある種の王制・・・Wikipediaでは君主制という言葉で代表されている・・・あるいは貴族による政治というようなことになるとして、それは軍事政権ではないのか、とか、現代の発想では実質をとらえられないだろうとはいえ・・・というのは今様と関係がないな。


大河ドラマというものは歴史の解釈の可能性のひとつであって、史実に必ずしも基づかなくていいというものだろう。
NHKは娯楽として作っているというのが基本なのだろう。そんなところに市民の認識が現れるし、そんなものに左右されるのだろう。以前より影響は少ないとはいえ、また史実に基づかなくていいとはいえ、歴史についての集団的無意識を左右し、それに内容が左右されている象徴的な存在だろう。
そういうわけもあって見ているが、そればかりでもなく、そのうち見なくなるかもしれない。
というのも今様とはあまり関係がない。


今の『平清盛』という大河ドラマで、「遊びをせんとや生れけむ」という「今様」に、節がついて歌われていて、それがドラマの象徴的な役割のひとつとなっているようで、その節が気になっていて、そのことを書こうと思っていたら、私が大河ドラマを見る理由になってしまって、その間にいろいろ調べてすっかり疲れてしまった。
桃山晴衣さんという方がうたっているものがYouTubeにあって、それが当時の今様のふしをどれだけ再現しているかはわからないものの、とりあえず大河ドラマの節は現代のものだろうということは私にも想像がついた。おそらく吉松隆さんのものだろう。
この、桃山晴衣さんの仕事は面白そうだ。三味線の伝承者だったようだが、それは江戸時代に興ったものについてであり、平安時代の今様の復元・・・なんて言葉が適当かどうかはわからないが、それは彼女にとってやむにやまれぬものだったようだと想像する。
いくつか聴いていたら、「梅は咲いたか」「さりとはつらいね」なんてものが出てきた。


今様、は、平安時代中期にうまれたうたの様式と現代からは位置づけられている歌曲、歌謡の形式・・・「様」は形式、様式だと言えるかもしれないが少し堅すぎるようで、「今風」、とでもしておきたい。
「遊びをせんとや生れけむ」は、『梁塵秘抄』にある有名なうたのようだ。後白河法王が編んだ今様集成、か。貴族が庶民のうたを好んで集めたものというのとは、少し違うかもしれないが、その要素もあるのではないか。


ぐだぐだ何を書いているのかというと、かつて今様だったものが変化しながらその命脈を保ってきて、しかし現代に及んで西洋音楽にほぼ駆逐されてしまったものか、ということであり、私などは西洋音楽受容の象徴とさえ言えるマンドリン合奏を今さらやっているわけだけれど、しかしその失われた文化の影、その巨大な事実がいちおうは日本に住む市民である私に、なぜか迫ってくるのだ。
これは一種の偽善とか、教養の誇示とか、そういうものなのだろうか。私は自分の人間性に信頼を置けるわけではなく、そのようなものではないと断言は出来ない。
しかしそれにしても、かつての日本の歌といまのほとんどの音楽との響きの違いに、慄然とする思いは捨てきれない。大河ドラマの中の今様に日本文化のなごりこそ若干は残っているものの、若干あると書いたことに自信がなくなるくらいのものだ。音の響きは完全に西洋のものだろう。リズム構造すら西洋風のかたちに合わせていると、素人ながら思う。
私の母などは現代の西洋化された響きしか好まない。私にもその感覚はわかる。
西洋の音楽はそれはそれで豊かなもので、それがアフリカの音楽と出遭ったものが世界に拡がっている。ほかのバリエーションもある。日本の音楽が育つ土壌はその独自のバリエーションといえるものを生む余地がないほどに西洋化していると、プロフェッショナルな作曲家の仕事である大河ドラマの音楽の旋律から感じ取ることになってしまっているかもしれない。

遊びをせんとや生まれけん?「梁塵秘抄」の世界

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梁塵秘抄 うたの旅

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