「風の谷のナウシカ」

風の谷のナウシカ [DVD]

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12/28にいろいろ書いたが、ふつうは宮崎駿の代表作は「風の谷のナウシカ」だろう。アニメーションの歴史で画期的な役割を果たしたのは「風の谷のナウシカ」のほうだからだ。作家性と商業性のバランスで、作家性のほうに大きくシフトを切り、逆に商業的にも大きく成功する結果となったとも言える。これをきっかけとして「世界のミヤザキ」となっていった。
ただし、マンガ作品の途中までを先に読み、連載中断にがっかりしていたらアニメ化の話しが聞こえてきて、あれよあれよという間だったかどうだか忘れたが劇場映画になったというようにこの作品の「アニメ版」に接した私にとってはなにか納得のいかない思いが残った作品であり、宮崎駿という作家像に対する興味はうすれなかったものの、アニメ版「風の谷のナウシカ」は、マンガ版のプロモーションビデオとしか、見ることが出来なかった。
それがワタクシのアニメおたく最後の季節となった。宮崎駿さんは「大学生になってアニメなんぞ見る物ではない」と言っていたのだ。ガンダムや、一連の富野由悠季作品でアニメに引きこまれ、なぜか動画表現の豊かさに惹かれ、作品全体よりもアニメーション表現に惹かれてアニメーターが誰かと言ったことを気にするようになってはいたが、ふと、振り返ると「未来少年コナン」ほどに無心に楽しんでいたわけではなかったことにも気付く。おたく的な関心への後ろめたさがあった(当時のアニメファンのほとんどに、そのうしろめたさはあったようにも思えるが)、そのうしろめたさを除いて残ったのが宮崎作品であった、その「未来少年コナン」が進化して登場した様に思えたのがマンガ版「風の谷のナウシカ」であり、そのことに瞠目していたのだが、劇場アニメ版では逆にそれにおたく的なデコレーションが再度ふりかけられたようにも感じられた。それは、主に、プロモーションのからみであったのではあろうが。しかし劇場作品としての性質上から「わかりやすく」なったらしいこともまた、その傾向を許容していたようにも思えた。
今見たら、きっといい作品だと思う。「ラピュタ」や「トトロ」のほうが宮崎氏のエンターティメント性がよりはっきり表れた、また作品としての一貫性も保たれたより優れた作品だという説があったと思う。確かにこれらの作品は好きだし、アニメを見なくなっても宮崎作品だけは見ていこうと思わせるだけのものではあったが。これらよりも、私は「風の谷のナウシカ」を取る。それは冒頭部の、作品世界の表現に、息を呑んだためだろう。作品全体はともかく「もののけ姫」も、この部分の圧倒的な世界表現を超えてはいないと思う。ただ、だんだんとマンガの世界に比べてちいさい部分がどうしても気になってきてしまった。


マンガ版はマンガ史に残る金字塔の一つだろう。「プラネテス」の幸村誠氏のテレビのインタビュー取材の背景に、書棚には「AKIRA」と「風の谷のナウシカ」がならんでいるのが見えたらしい。そういうものだ。一時代を画していた。この時代にこれらに比べられる作品を見つけられなかったことは、私の不明に過ぎなかったとしても、あまり惜しく感じられない。そしてこの2作では「風の谷のナウシカ」のほうが遠くまで行っていると、私は思う。
ただ、結末近くについては態度を保留したいのではあるが。批判というわけではないが、すこし釈然としないところは残る。この物語はある種の決着が付くべきものだろうか。ひとりの人物に世界の問題が集約されるべきだろうか。しかしこのような疑問を感じさせてくれることも、逆にこの作品の優れた部分であるように思えてもくるが。
とにかく、私の人生を左右した一作だ。この作品に出会ってしまい、創作することで世界に立ち向かうというようなことにイカレてしまったのだろうな、と、今は思う。中途半端な自覚だったので、世界に向き合おうとした途端にコケてしまい、今に至ることになってしまったのだが。・・・などといったことは作品が断続的につづいた途中に起こったことで、この作品が終了する頃にはほぼ、一般的な社会人から脱落するしかない状態に入り始めていたようだ。ちぇっ。長すぎるんだ。
ともあれ「世界のミヤザキ」の原動力はここ、「風の谷のナウシカ」のマンガの方にあるのではないか。宮崎氏にとっては、必ずしも歓迎すべき事ばかりではなかったのだろうが、このイメージの複合体の豊かさが、世界に羽を拡げる時の足がかりとなりえたのではないかと思う。
そうすると私がアニメーション作品としての代表作だと持ち上げた「もののけ姫」は、なにか抑制的な感じに思えてきたのではあるが・・・。しかしとりあえずここまで。
そのうちまた読み返したい。1年後になるか、もっと後になるか。とりあえず今は作品の存在を思い出しておきたいだけだ。


実は、今の私はずっと富野由悠季氏の方が気になり続けている。そして、特に気になり続けているのは「ターンAガンダム」と、ここに書く事じゃないようだが、「風の谷のナウシカ」の結末への違和感ともなにか関わりがありそうでもある。

風の谷のナウシカ 7

風の谷のナウシカ 7