何かを探しているのだろうか

高校時代の美術部の同期三人が集まる。地方都市の、イオンショッピングセンターの中のスターバックスコーヒーで時間をつぶすというのは、どういうことなんだろう。私たちは42歳だ。三人ともがスーツを着ていてもおかしくないのだろうが、決しておしゃれとは言えない(これは卑下ではなく、婉曲表現で、つまりはダサい)ジーンズ系統の服装をしているのは、美術部を出たようなせいなのだろうか。
ひとりは東京のアニメーター、ひとりは私で地方都市の出版編集関係の会社のオペレーター兼デザイナー・・・つまりは一昔前の「フリーター」と変わらない・・・ひとりは高校時代幽霊部員で、イベントだけにくるというような・・・いまも、イベントは、おこなわれているということなのだ・・・親の会社で役員をしている・・・なぜ汚いジーンズを履いているんだろう。しかも似合ってねえ。人のことは言えないが。

高校時代、私はほぼ三年になって美術部に入ったんだけれど、同期には私と、そのアニメーターをしている「男子」ふたりと、もう一人、女子が熱心に絵を描いていて、三人の実力は伯仲していて、しかも、タイプの違う絵を描いていたような、それだけで、今思うとすごく幸せな気持ちになる。
もうひとりは、その三人からすると、そしてそのうちふたりが行った教育大のレベルからすると、レベルなんて言葉を使ったことは、すごくくだらないことではあるのだけれど、だから、「実力が伯仲」も、ちょっと変なのだけれど、「絵が描けない」と、いっていいような感じだった。別に馬鹿にしているわけではない。ほかに、三人ほど実力は認められなかったけれど(と、書いている自分のいやらしさも自覚しつつ)熱心に絵を描いていた女子もいた。だから、そういう意味では幽霊部員は、はしにもぼうにもかからないのだが・・・彼は私と違って一年生から美術部にいたのだ。

もっとも愚痴が多かったのは会社役員で、彼よりもちょっと気の利いたことが言える・・・しかし、彼と話すときに特にそうだというのは、ちょっと高校時代の優越感が残っているから・・・というよりは彼の方に劣等感が残っているのを、ちょっと刺激したほうが彼も居心地が良さそうだからだろうか・・・私はその愚痴をちゃかす。
電気工事と不動産取引とを、しているらしい。興味がないといえばないし、くだらないけれど人々の生活に影響の大きい世界の話として知っておかねばならないことのように感じているから、ということで少しは知ってもいる。しかし、彼はその片隅で食っているのだなあ。中間管理職のつらさを話す。
価値観の多様さを、必要のないくらい感じるために、彼は、私たちと会ってくれるのだろうか。
「ふーん」「へー」「そうなんだろーねー」。

にわかな金融に関する知識を、わざと振ってみる。が、一般人の感覚からの攻撃に、専門家というものは弱いのかも知れない。「世界に実体経済よりも何倍もお金があるって、変でしょ、ふつうの人は稼いだお金をほとんど全部使い切るけど、使おうとしたって、何分の一かしか使えないようなお金が世の中にある。それって変じゃない?」
実際にお金を使う人のお金の価値が、その使えないお金の世界のなにやらのために上がったり下がったりしている。と、いう理屈にはならないのかしら。と、まで言えれば良かったんだけれど。
投機の仕組みをわかりやすく話したつもりで話してくれて、その世界ではお金が消えちゃうようなことがおこるという話になる。そういうものなのだということを言いたいらしいが、うん、それくらいならたぶんなんとなくは知っているよ。
でも、何か楽しいひとときだ。


この歳でアニメーターをやっているというのは、そのなかでも頭抜けた才能を持っている人の方が多くなるくらいではないかと思う、同期の彼はそこまではいかないかもしれない。だから、極めて堅実なのだ。
この三人でもっともオタクだったのは私で、でも、周囲には、絵を描かない人で、もっとオタクっぽい人はたくさんいた。アニメーターをやるようなひとは、いわゆるオタクとはちょっとちがうのだろうけれど、そのなかでも彼はオタクっぽくなかっただろうなあと思う。


私は何なんだろうなあ。