「精神」

先日に続いて、映画を見た。
これも話題の映画だけれど、娯楽映画ではない。
精神医療の現場にカメラを入れる。精神病の患者さんにカメラを向ける。
ドキュメンタリー作家の多くの人が思いつくような気がするが、あまりやられなかったことなのだろうか。
書籍では、「ルポ・精神病棟」というものがあり、賛否両論を巻き起こしたらしい(名前を出してしまったので蛇足とは思うけれど・・・この書籍はこの映画と関係がないと言っていいだろう・・・)し、テレビの報道番組ではときどきとりあげられるが。
この映画の特徴は、映っている人の顔にモザイクをかけたり音声を変えたりしていないことにもあるようだ。北海道日高の「べてるの家」の報道などでも特にそういうことはされていないが、私が見たのは短時間のものだったし・・・しかしここに関しては長時間の報道番組も、今までにはつくられたことはあるのではないか・・・でもまあ、そういうことは置いておいて。


とにかく、私たちに身近でありながら・・・身近でないと言いたい人が多いかもしれないが、誰にでも起こりうることなのだ。ガンや糖尿病と同様に、患者本人に悪い部分もあるかも知れないし、偶然に左右される部分もある。精神的外傷を大きな原因とする場合などは、交通事故と変わらないほど偶然の要素も大きいのではないか。そうでありながら、知られていない世界。
忌避されることで悪化する人も多いだろうし、この映画の中にも出てくるが、近親者に病院に行くことを禁じられることもあるようだ。身近でない人というのはある意味幸福なのだろう。身近になった場合に、そうでなかった時には自分で考えなかった行動を取るかも知れないし・・・私は特に身近でもその逆でもないが・・・。


坂口安吾も書いていたのだけれど、精神科の患者さんは、普通の社会で大手を振って歩いて生きている多くの人にくらべて特におかしいわけではない。さほど重い人ではないが私の知人にひとりいる。今は回復しているが、再発をやはり恐れている人がいて、けっこう親しい。私は、それらのひとより、そういう事を忌避する人が、より社会にダメージを与えていると考える。
一面的に、一時的な限られた時間単位の能率を求める発想は、例えば精神疾患の人を排除することを疑わない。身体障害でも同じだが・・・。
それぞれの、その人本人は多くの場合生活力をなくし、ある程度身体的、特に脳機能的なダメージを受けているし、その他の身体的な苦痛とは違った苦痛を感じ続ける。副作用の伴う投薬や医療的なカウンセリング等にたよることによって生活力や、快適さをようやくある程度取り戻すことが出来る状態なのだ。
そういう、多くの点については同じように病的な状態でも、精神的疾患ということが特別視されるということは・・・。
自意識の混乱に巻き込まれることを恐れるからだろうか・・・。
あるいは、コミュニケーションの複雑さを回避したいからだろうか。
実際はコミュニケーションが単純化するのは、軍隊などで・・・あるいは、混乱を回避することが特に求められる現場で・・・しかしその場のコミュニケーションを単純化するためのしっかりとした裏付けと共通認識がなければ、アブグレイブ収容所のようなことがおこり・・・。
まとまらないが、コミュニケーションの様態が混乱したときに利己的なふるまいで押し切る人が病む人をつくることが多いと考える。もちろん病む人が被害者のような言い方では多くの事例を決して説明できないはずだが・・・。
あるいは常に利己的である人が混乱の隙をついて、実際はある社会全体にとって不利益なのだが、ターゲットの不利益が社会の利益になるかのように瞬時に納得させることが容易な場面が訪れること。
社会的通念のいくつかのありよう・・・。
何か踏み出しすぎた書きようをしてしまったが・・・。


メメント・モリという言葉があり、死を忘れないほうがいいということもあるが、病を忘れないことも必要だろう。ガンや死につながりやすい病気のこと、精神の病のこと、それが多様であることなどを。
ただし、難しいところでもある。私はこういうことに関心を持ちすぎていた時期があったかも知れない。知的好奇心が、未知の世界、実は誰しもにとって切実でありながら日常的に情報に接することの少ない世界。
ふと、性的な問題もそうだなと思ったが、どういうことなのか。不確定性要素や偶然に左右される要素が強い事への忌避反応だろうか。リスキーだということか。




映画のことはほとんど書いていないなあ。
私にとっては面白かった。時に笑いもした。勇気づけられる場面、うなづかされる部分もあった。
エンターティメントということは、あまり意識しているわけではないだろうし、多くの人がこれを見てどう思うか分からない。国際的な賞を取ったようだけれど、そうまで称揚することが適当なのかどうかは、多くの作品を見てきたわけではないからわからない。
ドキュメンタリー作品では、ずいぶん前に「ゆきゆきて神軍」と、「ハーヴェイ・ミルク」、最近では「蟻の兵隊」という映画を見た。「ゆきゆきて神軍」は、最近も見たかなあ。「ハーヴェイ・ミルク」も、「ミルク」の公開を機に再上映されていて、見たかったけれど、見ることは出来なかった。「ミルク」も。「ミルク」は、ドキュメンタリーではないけれど。それらにくらべて、どうかなあ。


とりあえず、私は、見て良かったと思った。
そんなに普通の精神科病院ではないのだろうが、ある典型のような部分もある。普通の人が普通に共感するようであったり、きれいごとがうまくいくはずがないと思うようなひとが背を向けるようなもののようであったりもする。
いろいろなことにとって、どうかはわからない。私はある意味でかなりよい観客だったのかも知れないし。
これを見て、おかしな事を考える人がいないかどうか分からないし、陰鬱になってしまう人もいるだろうか。
また、まとまらない感想になってしまって申し訳ないが、私はより多くの人に見てほしいと思う。少なくとも現段階では。