「精神病とモザイク」

映画「精神」の監督さんの書いた、主にこの映画と精神医療に関する本。あと、対談。映画に感銘を受けた人は必読かも知れません。
この問題は微妙。この映画には、患者の方がモザイクなしで登場している。そのことへの大きな反響。患者の方々の病状に影響してしまうのではないか、という底知れない不安は、とりあえず、この本が書かれた段階ではぬぐわれる。逆に、参加した患者さんたちが力を得ている感じもあり、ほっとします。
とはいえ、やはりこの問題は微妙。きれいごとじゃないかな、と少し思う部分はないわけではないし、そういう留保は常に必要な気もする。が、おそらく、違うと思う。とも書いておきたい。


一昨日書いた中に名前を出した「ルポ・精神病棟」という本や、「べてるの家」という施設に関して、患者さんたち中心の座談会で話題が出ている。
この手の話題として、私の知っている単語が出てきて、それ以外にはさほど出てこない。私はそれなりに関心を持っているけれども、それにしても実際に精神医療の当事者で、その在り方について自分のこととして深く考えている方さえまず話題にすることも同じようなことしかない・・・。ということは、日本全体としてこの問題に関して見て見ぬふりをしていて、マスコミもそのことを正確に反映してさほど話題にしていないということかもしれない。あるいは、このふたつがそれほどに重要なのか。
前者は日本における精神科医療の実態を暴いた、というような本、朝日新聞の連載をもとに1973年に出たようだ。読んでいないが、閉鎖病棟で自由が奪われること、拘束などの実態が書かれているらしい。さすがに現在は開放病棟が一般的になっているのではないかと、思っていたが、「精神病とモザイク」を読んでちょっとわからなくなった。
べてるの家」について私は書くほどのことは知らないものの、報道で時々触れる際には、何かとてもユニークな取り組みのように感じていたものの、近くの話題だからこの名前を良く聞くけれど、全国に類似の施設があるのだと思っていたのだけれど・・・。


心理学、精神病理学といった分野は思想とも関係が深く、フーコーはそこから出発しているようでもある。「精神疾患とパーソナリティ」という本を何故か読んだけれど、そこでは精神病がつくられた構造があぶりだされている。
ドゥルース、ガタリなどもスポットライトを当てていたような気もするが・・・そういった西洋の伝統とも言える様相はあるが・・・。
フロイトは無視できない。ほかにはユングヤスパースフランクル、レインあとはベイトソンなんて名前が・・・。
私自身は宮城音弥河合隼雄木村敏、最近は中井久夫といった心理学者、幾人かは臨床にも従事しているお医者さんでもある人たちの著作に関心を持ってきた。
そういえば、河合氏などは文化庁長官などをつとめていたが・・・「心のノート」というものがいつか導入されていたのだな。河合氏が中心となってつくったらしい・・・予算が多額であることと現場でほとんど使われていないことが問題になっているらしい・・・。どんなものなんでしょうね。
というように、この手のことに関心が、私はずっと深かったのですが・・・。
とりあえず、このあたりの人たちの中で、この本に名前が出てきたのはレインだけだろうか。この人は「反精神医学」といわれていたらしい・・・。
臨床に関わっている方が多いといっても、こういう、一般の人や、思想的に関心のある人に知られている心理学関係の知識と、実際の精神医療の現場のおおかたの実情は、かなりかけはなれたものと言えそうだ・・・。


一般的に関心を持たれている流れはある意味精神分析と関わると思う。カウンセリングを中心とした治療方針を立てるものだろうと思うけれど、実際の精神科診療はアメリカでつくられたガイドラインに従って患者を分類し(?)、投薬中心に治療するという流れが主流になっているようだ。それは「精神障害の診断と統計の手引き」などというものらしい。
さらに・・・重症(慢性)の患者に関してとなると、大規模な病棟が増え、長期入院する例が多いらしい。その他の傷病では長期入院が敬遠されるようになってきている実態とはかなり違うように感じるが・・・「社会的入院」という言葉があるようだ。
日本の精神科病院の入院者数は約32万人で、精神科の病床数はダントツで世界一だという。


そうだ、忘れるところだった。「精神」という映画に出てくるのは、日本の一般的な精神病院とは全く違う、ここもやっぱりユニークな診療所。




ここでこんな話題を出すのはいやらしいようだけれど、日本で自殺が非常に多いということが、思い出される。
気になって調べてみたら、厚生労働省の統計による自殺死亡の年次推移なんていうものが出てきて、自殺者数はもちろんのこと、人口に比しての割合も平成15年段階で明治以来最悪になっている。平成12年に、それまで最悪だった戦後の時期も、オイルショックの時期も超えてしまっている。ただし、女性は違う。男性に関しての増加が極めて顕著。今はどうなっていることか。


何を言いたいのかよく解らないような文章になったが、これらは日本社会の非常に重要な一側面ではないかと思う。
日本の社会保障制度も、医療保険制度も、そんなに悪いものではないと思いたい。あるいは識字率世界一をずっと続けてきていた教育、文化、近代化の弊害はあるにしても西洋にくらべて特にひどいものではないと思いたい。が、そうも思ってはいられないようだ。
これは、いったい、どうしてなのか。

精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける (シリーズCura)

精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける (シリーズCura)